真珠のような質感と、見惚れてしまうほど印象的な造形美で人々を魅了してきたのが、アンティーク陶磁器の人形です。
エレガントな貴婦人や愛らしい動物たち、華奢で可憐な植物など、さまざまな題材が取り上げられており、置き物としてインテリアに活用したり、好みのモチーフを収集する楽しみもあります。
今回はヨーロッパのアンティーク陶磁器の人形についてご紹介します。
用途と姿を変えながら
歴史とともに姿、素材を変え発展してきた人形は英語で、フィギュリン(Figurine)、またはフィギュア(Figure)と呼ばれています。
いま「フィギュア」と聞いて思い浮かぶのは、プラスティックや樹脂などで作られた、アニメや映画などのキャラクターをモデルとしたものかもしれません。
現在に至るまでに、人形 ー フィギュア ー には長い歴史がありました。ヨーロッパでは紀元前の時代から焼成粘土で作られたものが発見されています。
人々が埋葬された場所で発掘されることが多いことから、人形は宗教的、あるいは儀式的な存在であったと言われています。
中世に登場した陶器のフィギュア
ヨーロッパにおける陶器のフィギュアは、中世の時代に人間や動物のかたちを加えた水差しとして登場します。
中世後期に生み出された、動物を模った水差しは赤褐色の土器(アースンウェア)でできており、釉薬は黄色や銅緑色でした。
イギリスでは1670年代に、ロンドンの「ザ・フルハム・ポタリ―」の設立者であり、炻器のパイオニアとも呼ばれるジョン・ドワイトによって、英国初の装飾的なフィギュアが炻器で作られています。
しかしドワイトのフィギュアは大量生産のためではなく、彫刻のように個別に作られたものでした。
マイセン磁器から始まる陶磁器フィギュアの歴史
中国の影響で、ヨーロッパ中で磁器製造の秘密を解き明かそうとしていたのは「ヨーロッパのアンティーク陶磁器~ポーセリン/磁器の歴史~」でご紹介したとおり。
各国が白く半透明の美しい磁器の開発に力を注いでいたとき、歴史のスタートを切ったのはマイセン磁器でした。
アウグスト2世の命により1709年に白磁を製造したマイセン磁器は、陶磁器のフィギュアにおいてもヨーロッパでは最も早く生産に乗り出します。
ステイタスと政治に欠かせないフィギュア
磁器に魅せられ、膨大なコレクションを所有していたアウグスト2世は、自分自身のためにも装飾品を作らせていました。
その時代、ヨーロッパ各地の王侯貴族に絶大な人気のあった陶磁器は、自身の地位と名誉を誇示するため、そして政治上でも不可欠であった外交上のギフトとして高い需要がありました。
マイセン磁器で生産された陶磁器のフィギュアは、どちらの条件も兼ね備えた絶好のアイテムでもあったのです。
テーブルを華やかに装う「カンバセーション・ピース」
マイセン磁器のフィギュアの生産に影響を与えたのは、18世紀初頭にヨーロッパの貴族たちに流行していた、ダイニングテーブルに飾られていた砂糖の装飾と言われています。
食卓の上のきらびやかな食器や豪勢な料理がステイタスであったこの時代、砂糖は人や門、馬車や神殿などを模って、テーブル上の手の込んだディスプレイとして使用されていました。
この砂糖は食べることができるので、その後は跡形もなく消え去ります。これらを陶磁器で作れば永く使うことができ、かつその価値を誇示することができました。
この時代、陶磁器のフィギュアは飾り物ではなく、「カンバセーション・ピース」と呼ばれる、テーブルの上で話題の主役にもなれるアイテムだったのです。
ヨーロッパ中に影響を与えたモデラ―
マイセン磁器のフィギュアは18世紀後期に有名になり、ヨーロッパ各地の陶器メーカーに大きな影響を与えました。
マイセンのモデラ―(模型製作者)であるヨハン・ヤコブ・キルヒナーとその後継者であるヨハン・ヨアヒム・ケンドラ―は、マイセン磁器の歴史を語る中でも欠かせない人物となりました。
ヨハン・ヨアヒム・ケンドラ―が作るフィギュアは繊細でありながら躍動感があり、ダイナミックかつ自然な姿で、多くの陶器職人たちにインスピレーションを与えています。
ヨーロッパ中で愛されたフィギュア
マイセン磁器が作り出したフィギュアは、ヨーロッパ各国で熱狂的な人気を博し、さまざまなアイテムが生み出されました。
モチーフにはイタリアの即興演劇であるコメンディア・デッラルテのキャラクター、アルレッキーノや、寓話的や神話的なものなど、さまざまな題材が取り上げられました。
各国の陶器メーカーはマイセン磁器の強い影響を受け、模倣から始まって、オリジナルのフィギュアの生産へと発展を遂げていきます。
フィギュアはヨーロッパ中で置き物やお菓子などを入れる容器、水差しやジャグなど、さまざまな用途別に色々なモチーフが生み出されていったのです。
自分だけの宝物になる陶磁器のフィギュア
抜けるような白い質感に鮮やかな色合いを加え、いきいきとした生命感にあふれたアンティーク陶磁器のフィギュアたち。
それらを一度手にすれば、生涯変わらぬ宝物となってくれるでしょう。
多くの魅力を持つ陶磁器のフィギュアの歴史から、心をときめかせるその魔法にしばし酔いしれてみてはいかがでしょうか。
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