アンティーク陶磁器の人形/フィギュアは思わず触れてみたくなるほどなめらかで、つややかな質感が大きな魅力のひとつです。
貴婦人や動物など、モチーフに心惹かれることが多い陶磁器の人形ですが、素材や製造法によって、見た目や雰囲気が大きく変わるのをご存知でしょうか。
今回はヨーロッパ中の上流階級の人々を虜にしたフィギュアの製造法のひとつ、ビスク磁器についてご紹介します。
ビスク磁器とは
16世紀に中国から海を渡ってやって来た磁器に、ヨーロッパ中の宮廷や王室が夢中になったのは「ヨーロッパのアンティーク陶磁器 ~ポーセリン/磁器の歴史~」でご紹介したとおり。
白く輝く繊細な磁器を、どうにか自国で生産できるよう各国の陶器メーカーが懸命な努力しており、結果としてヨーロッパではさまざまな異なる製造法による磁器が生み出されました。
その中のひとつ、1700年代半ばにヨーロッパで人気を得たビスク磁器は、素焼きの白い磁器のことを指します。
ビスク焼成と呼ばれる手法で生産され、ビスク、またはビスケットという名で呼ばれています。
フィギュアに似合うつややかな質感
ビスク磁器は1回目の焼成では非常にもろく多孔質でしたが、これに釉薬をかけ2回目の焼成を行い、つるりとしたガラスのような表面を得ることができました。
この手法は釉薬を用いなくても作ることのできる、硬く丈夫な現代のビスク磁器とは製造法が異なります。
ビスク磁器は食器よりも彫刻や装飾品として多く使われており、特にこの時代は上流階級の人々に人気のあったフィギュアが数多く生産されました。
ビスク磁器の艶のある触感は、その時代にテーブルやキャビネットを彩る、小さくて繊細、エレガントな表情を持つフィギュアにはぴったりだったのでしょう。
長く愛され続けるビスク磁器
ビスク磁器はまるで大理石のようになめらかな外観を持っており、それは多くの人々を夢中にさせました。
18世紀のヨーロッパでは、ビスク磁器のフィギュアは王侯貴族が最も愛する陶磁器のひとつとなったのです。
フィギュアの製造法として良く知られたビスク磁器ですが、時代を経て19世紀になると、上流階級の女性たちに非常に高い人気のあった、フィギュアよりも大きなサイズの人形の顔や手の部分に使われるようになりました。
これらはビスクドールと呼ばれ、今もなお世界中にファンを持つほど根強い人気を誇っています。
ロココ調から新古典派のスタイルへ
ビスク磁器の開発とフィギュアの生産で、他国に多大な影響を与えたのはフランスを代表する陶器メーカー、セーブル磁器になります。
セーブルの名称がまだヴァンセンヌ磁器であった時代の1750年代初期に、ソフトペースト(軟質)のビスク磁器を使用し始めています。
セーブル磁器のフィギュアのスタイルは、その時代に人気の高かったロココ時代の代表的画家であるフランソワ・ブーシェから、新たにやって来た流行である新古典派の彫刻家、エティエンヌ=モーリス・ファルコネ の様式へと続いて行きました。
セーブルのビスク磁器のフィギュアはとても優雅で洗練されており、そのスタイルはヨーロッパ各国のフィギュアのデザインに大きく反映されています。
英国のビスク磁器
1770年代のイギリスでは、軟質のビスク磁器のフィギュアはセーブル磁器のスタイルを追って、新古典主義様式が人気となりました。
この時代、ビスク磁器のフィギュア生産で著名なのは『チェルシー・ダービー』になります。
ロンドンのチェルシー地区に創業したチェルシー陶器工房は多くの美しいフィギュアを生産し、マイセン磁器よりもセーブル磁器の影響を強く受けていました。
1769年にチェルシー陶器工房はジェームズ・コックスに売却され、1970年に再度ロイヤル・クラウン・ダービー磁器会社のウィリアム・デュ―ズベリーに売却されています。
ダービーが合併した1770年からチェルシーが完全に閉窯された1784年の間に生産されたものは、『チェルシー・ダービー』と呼ばれています。
さらに洗練された質感へ
『チェルシー・ダービー』時代に作られたビスク磁器フィギュアは、ダービーの伝統と、チェルシーの職人の技術が重なり、さらに動物の骨灰を加えてペーストを強化しています。
こうして作られたフィギュアは、抜けるような透明感と軽やかで繊細なアイボリーの色合いで、多大な人気を博しました。
デューズベリーの息子の死去の後に会社を受け継いだマイケル・キーンの時代、18世紀末のビスク磁器はさらに発展を遂げて、絹のように柔らかな表面を持つことを実現しています。
フィギュアの魅力をより知るために
食卓の上の視線を集める題材として、あるいはキャビネットの中や暖炉の周りで、ひと際その存在感を放つアンティーク陶磁器のフィギュアたち。
フィギュアならではの魅力を存分に楽しめるビスク磁器は、生産された時代を反映して、どの角度から見ても完璧なほど美しい質感を持っています。
モチーフやデザインなどに惹かれがちなフィギュアですが、その素材や製造法、さらに歴史を知れば、その魅力をより深く理解することとなるでしょう。
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