大きな瞳と薔薇色の頬、フランスらしい気品のある佇まい。
ビスク・ドールの中でも豪奢でエレガントな衣装を着こなしたジュモーの人形は、製造され始めた時代から多くの女性を虜にしてきました。
今回はビスク・ドールの代表とも言える、工芸品のような美しさで子どもだけでなく大人までも夢中にしてきた、ジュモーの人形についてご紹介します。
ビスク・ドールの始まり
1840年ごろから人気を得た頭部から肩まで磁器でできたチャイナドールは、1860年代になるとビスクで作られたものに変換しつつありました。
素焼きの磁器に着色が施されたビスク焼きでできた頭部は、そのリアルな質感で人気を呼び、これがビスク・ドールの誕生へと繋がります。
ビスク・ドールは初めにフランスで製造され、1880年代から1890年代にはドイツでも高い人気を誇りました。
このふたつの国はビスク・ドールの製造期間中、常に人気を競うことになったのです。
フランスを代表するビスク・ドール、ジュモー
フランスの人形制作が本格的に盛んになったのは1860年代と言われ、現在でもその名を世界に広く知られているのはジュモーではないでしょうか。
ジュモー社は織物産業の家系に生まれ、人形制作者の姪と結婚し事業を始めていたピエール・フランソワ・ジュモーと、ルイ・デジレ・ベルトンが1841年に"ベルトン&ジュモー・カンパニー"を設立したのが始まりです。
1844年にジュモーとベルトンはパリ博覧会に人形を展示し、高い評価を受けました。
二人は特に人形の衣装に力を注ぎ、織物業界の世界にいたピエール・フランソワ・ジュモーの才能がここで遺憾なく発揮されました。
共同設立者であったベルトンは1845年に会社を離れ、ピエール・フランソワが独立しジュモー社を興します。
1849年のパリ万博でジュモーの人形は銅メダルを獲得し、1851年のロンドン万国博覧会では第1位のメダルが授与されています。
しかしこれらの博覧会では主に衣装に高い評価が寄せられ、人形そのものはあまり注目されてはいませんでした。
磁器工場の設立
1840年代から1855年まで、ジュモーは紙製の張り子の頭部を持つ人形を作成しており、1855年から磁器製の頭部を持つファッションドールを生産し始めます。
しかしこれらの頭部はジュモーが製造したものではなく、フランス製もしくはドイツ製のものを使用していました。
1870年代になると、他社が制作したものに満足していなかったピエール・フランソワ・ジュモーはパリ近郊のモントルイユに磁器工場を作り、自社で頭部の製造を始めることになりました。
国際的な評価を得て、ジュモーの黄金時代へ
ジュモーの人形を国際的に有名にしたのは、会社を引き継いだ次男のエミール・ルイ・ジュモーになります。
エミール・ルイは1870年代にベビー・ドール、ベベの製造を開始し、この人形は欧米で非常に高い人気を得ることとなりました。
1878年のパリ展では金メダルを、1879年のシドニーでの国際展示会と1880年のメルボルンでも賞を獲り、ジュモーは黄金時代を迎えます。
1870年代後半から1890年代後半まで、ジュモーは年間に約10万体の人形を生産していたと言われています。
人々の憧れとなったジュモーの衣装
ジュモーはその美しい人形はもちろん、豪奢で繊細な衣装も人々の憧れとなりました。
モントルイユの工場では人形の組み立て、靴や靴下、下着の生産を行い、パリの工房ではジュモー夫人がデザインやパターン、素材を決めた衣装が作り出されました。
ジュモーの人形の衣装は高級な素材が使われており、胸の開いた大胆なドレス用にリアルなバストを持つ人形もこの時代に製造されています。
その華麗な衣装はその時代の豊かな社会の象徴となり、オートクチュールで作られたような衣装は女性たちを虜にしたのです。
多くの人形メーカーは派手に宣伝を行い、頻繁に博覧会に人形を出品しました。美しく精巧な人形とその衣装、国際的な評価と高価な価格設定は子ども向けというよりも大人の女性をターゲットにしていたとされています。
ビスク・ドール製造の戦い
長年、フランス製のビスク・ドールの最大のライバルはドイツでした。
より安い価格でビスク・ドールを生産していたドイツに非常に苦戦を強いらていたフランスの人形メーカーは、19世紀後半には多くの工場が閉鎖に追いやられてしまいます。
ジュモーも例外ではなく、会社の生存をかけて他の人形メーカーとともにフランスの人形製造の組合、ソシエテ・フランセーズ・デ・ファブリケーション・デ・ベベ&ジュエ(S.F.B.J)に入り、1899年にジュモー独自の製造は終わりを告げることとなったのです。
歴史に秘められたジュモーの魅力
製造が終了しても、ジュモーのビスク・ドールはその人気が衰えることはありませんでした。
現在でもなお多くの人々を惹き付けてやまないジュモーの人形は、ひと目見ればその理由がきっとお分かり頂けるでしょう。
美しく洗練された衣装に身を包み、フランスらしい気品に満ちたジュモーの人形。歴史の紐を解きながら、ぜひその魅力に触れてみてはいかがでしょうか。
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