ヨーロッパの王室貴族を始め、上流階級の人々を夢中にさせてきたアンティークレース。
その中でも熟練者の手により針と糸で作られたニードルポイント・レースは今もなお、その美しさが色あせる事はありません。
今回はアンティークレースの中から、ニードルポイント・レースの種類についてご紹介します。
ニードルポイント・レースとは
ニードルポイント・レースとは、その名のとおり針と糸を使い作り上げたレースを指します。
デザインを描いたパターンの輪郭に沿って糸で縫い、内側をステッチで埋めます。パターンを外して出来上がったモチーフを繋ぎ合わせていくもので、とても人の手によって作られたとは思えないほど繊細できめ細やかなレースです。
16世紀初頭にヴェネツィアと北ヨーロッパのフランドルで始まったニードルポイント・レースは、その時代の糸はリネン、絹、もしくは金や銀の糸が使われ、コットンが使われたのは19世紀初頭となります。
レティセラ
レティセラはイタリア語で「小さいネット」を意味し、透かし模様の刺繍から発展を遂げました。
刺繍を施した布から一定の糸を引き抜き、布を切り取ってボタンホールステッチで補強しながら模様を作り上げる方法です。
正方形や円の特徴的な幾何学模様が生まれるこの手法は、ニードル・レースの基礎と呼ばれています。
プント・イン・アリア
レティセラからさらに進化したニードル・レースがプント・イン・アリアです。イタリア語で「空中ステッチ」という意味を持ち、17世紀半ばに流行した手法です。
レティセラのように布地を必要とせず、幾何学模様よりもさらにエレガントなデザインとなりました。主に縁飾りとして作られ、16世紀から17世紀のひだ襟や袖に多く使用されました。
ベネツィアン・ニードルポイント・レース
ニードルポイント・レースの発祥の地として知られるベネツィアでは、当時のヨーロッパでは最も精巧で、高価なレースが生み出されました。
17世紀から18世紀半ばにかけて、ヴェネツィアで生まれた主なニードルポイント・レースには、大きな花のモチーフを浮き上がらせるように立体的に作られるグロ・ポワン、それよりも小さな花をあしらい、より精巧となったローズ・ポワンがあります。
さらに小さく、繊細なモチーフで作られたポワン・ド・ネージュ、レースの一部に詰め物をしてよりダイナミックな効果を生み出したポワン・プラットも生まれました。
18世紀初頭にはベネツィアのレース産業は衰退しますが、ブラーノ島では漁業が立ち行かなくなった頃にレース産業が復活し、ポワン・ド・ブラーノを作り出します。
初期のベネツィアン・レースやフランス・レースをその時代に合わせて模倣し、20世紀初頭まで繁栄する事となりました。
フレンチ・ニードルポイント・レース
ルイ14世の時代、フランスがベネツィアのレースに費やした金額は莫大なものになり、海外のレースの輸入が禁止、財務総督のジャン=バティスト・コルベールにより自国でのレース生産が奨励されました。
有利な条件でヴェネツィアとフランダルからレースメーカーを移住させ、コルベールの城があったアランソンからフランスのレース産業は発展していく事となります。
アランソンで生産されたレースは初めこそベネツィアン・レースに似たものでしたが、1680年代までにポワン・ド・フランスと呼ばれるフランス独自のレースが誕生しています。このレースは小さなモチーフで構成され、ピコットで装飾された編み目織りが特徴です。
さらに規則的な細かいボタンホールで編み目を作るポワン・ド・アルジャンタン(アルジャンタン・レース)は18世紀を通してフランス宮廷のお気に入りとなりました。
マリー・アントワネットの好みであったのはよりシンプルなデザインのポワン・ド・アランソン(アランソン・レース)と言われています。ナポレオン1世が結婚の際にポワン・ド・アランソンの寝具を妻に送り、再び流行となった時代もありました。
ホリー・ポイント・レース
ホリー・ポイントは18世紀から19世紀にベビー服、特に洗礼式用のため作られたイギリスのニードルポイント・レースです。ボタンホールステッチによって作られる布地にすき間、もしくは穴を残す手法です。
ホリー・ポイントはプロのレースメーカーではなく、一般の人々によって発展しました。洗礼用のベビー服として、レースはベビーボンネットやキャップに縫い付けられ、デザインは花や動物、宗教的なモチーフが施されています。
ブリュッセルとフランドルのニードルポイント・レース
1830年にベルギーが独立国家となるまでに作られたレースはフランドル・レース、以後のものはブリュッセル・レースと呼ばれています。
刺繍レースで有名であったフランドルでは、1650年代までにボビンレースと同じデザインを使用した、フランドル独自のニードルポイント・レースが生み出されました。
初期のレースはボタンホールのあるバーで繋がっていましたが、1730年代に編み目織りの下地が登場し、こちらがメインとなりました。
ブリュッセルのニードルポイント・レースはボビンレース向けの細い糸で作られていたため、フランスに比べ比較的軽いレースでした。フラットなかたちでしたが、装飾的な詰め物が施されているのが特徴です。
19世紀後半から20世紀初頭にかけて、最も繊細で高価なレースのひとつがポワン・ド・ガーズです。細やかな糸を使い、とても軽く優れたデザインが特徴で、バラの花と花びらが多くモチーフに使われました。
アイリッシュ・ニードルポイント・レース
17世紀からレース産業が始まっていたアイルランドでは、ジャガイモ飢饉から暮らしを助けるべく、1846年までに独自のニードルポイント・レースが生まれました。
アイリッシュ・レースのデザインは主に野生の花のアレンジです。花弁をステッチで強調して陰影を生み出す手法で、ユーガル・レースという名称で知られています。
糸が織りなす物語
ニードルポイント・レースは主に女性が家族を助けるために糸と針を使い、大変な時間と労力を割いて作り上げられた工芸品です。
それは機械で作られたものでは味わう事のできない繊細さと優雅さに満ちています。
王室貴族を魅了した数々のニードルポイント・レースには、作り手や持ち主のそれぞれの想いや歴史が込めらているはず。
繊細なモチーフが散りばめられたアンティークレースから、その物語を感じてみてはいかがでしょうか。
↓アンティークショップEglantyne(エグランティーヌ)はこちらから↓