手で触れたら儚く消えてしまいそうな、まるで天使が身に着ける衣のように軽やかで繊細なアンティークレース。
ヨーロッパに生まれ、長く愛され続けてきたレースの種類の中から、今回は最も古い歴史を持つ、イタリアとフランドル地方のボビンレースについてご紹介します。
イタリアのボビンレース
ミラネーゼ・レース
17世紀から18世紀にかけてミラノで生産されたボビンレースは、ミラネーゼ・レース、またはミラネーゼ・テープ・レースと呼ばれています。
主にひだ飾り、あるいは襟やエプロンの縁取りとして作成されました。
トワル(生地)はリネンに似せて作られ、細やかな糸が使われています。バロック様式の流れるようなデザインで、大胆なかたちの葉のモチーフや渦巻き型、鎖が良く見られ、時として動物や人間のパターンも見かけられます。
ジェノヴァ・レース
16世紀に絹と金属を使用したレースの生産地がジェノヴァです。初期のレースはその当時のニードルポイント・のデザインとして知られるプント・イン・アリアを模倣し、シンプルな細い三角形のフォルムが撚り糸で作られています。
のちにより太い糸が用いられるようになり、小さな葉のモチーフ、貝殻の縁取り模様や麦穂の装飾が特徴です。
マルテーズ・レース
マルタ島で作られるマルテーズ・レースは、主に光沢のあるクリーム色のシルクを素材としています。黒い絹糸で作られたものもあります。
パターンにマルタ十字を含んでいる事が特徴で、ジェノヴァを模倣し麦穂を装飾に取り入れていますが、他の国の細長い麦穂に比べ丸みのあるフォルムとなっています。
非常に人気が高かったマルテーズ・レースはイギリスでコピーされ、ベッドフォードシャー・マルテーズと呼ばれるレースが生産されています。こちらのデザインにマルタ十字はなく、白い綿もしくは黒い絹が素材です。
オランダ&フランドルのボビンレース
フランス革命の時代に姿を消したフランドル地方は、イタリアと同じくレース発祥の地として知られています。
フランドル地方は現在のベルギー、オランダ、フランス北東部が含まれており、ここではこの地方のボビンレースをご紹介します。
ヴァランシエンヌ・レース
北フランスのヴァランシエンヌで生産されたレースは透かし模様のように軽やかで、花や葉がエレガントなカーブを描き、縁は緩やかな曲線で非常に繊細なデザインが特徴です。
とても細い糸を使用しているために、非常に高価なレースとして知られています。また作業にも多くの時間がかかり、膨大な数のボビンが必要だったそう。
1日に4センチほどしか作る事が出来ず、ペアのひだ飾りを作るのにレースメーカーの労働時間は1日15時間で、10か月間もかかったと言われています。
ヴァランシエンヌ・レースは主にベッドリネンやランジェリー、女性用の肩にかけるスカーフなどに用いられました。
フランドルレース
フランドルレースはいくつかのデザインで知られており、そのひとつがジェノヴの襟レースに似たもので扇型をしており、帆立貝の縁取りが繰り返されているデザインです。ジェノヴァとの違いは糸の細かさ、麦穂の装飾がない事です。
18世紀になると形状が変わり、トワル(生地)とリゾー(網地部分)が別々に作られ、リゾーの糸はトワルの後ろ側に配置されています。
「18世紀のフランドルレース」として、ブラバンド、バンシュ、アントワープ・レースなどが知られています。
メヘレンレース
フランドル地方メヘレンで生産されたレースは、ヴァランシエンヌ・レースと同じように複雑なステッチとデザインで、透明感のある非常に繊細なレースです。
花柄のデザイン、六角形の下地が特徴的で、トワルはゆるくねじられた絹糸で作られています。
主に女性の夏用の衣類に用いられ、17世紀から18世紀にかけて王室貴族を始め、とても高い人気を誇っており、現在でもその細かやさと複雑さからもっとも高価なボビンレースと言われています。
ブリュッセル・ボビンレース
ポワン・ダングルテール(イングリッシュ・レース)とも呼ばれているブリュッセル・ボビンレースの名前の由来は、幾つかの諸説があります。
ひとつにはレース輸入が規制されていた英国に輸出しやすいように、その名を付けたというもの。
もうひとつはフランドル地方とイギリスのデボン州の間の貿易ルートを辿り、そこに定住したレースメーカーたちがフランドルから持ち運んだパターンに基づいて名前が付けられたというものです。
ブリュッセル・ボビンレースはトワルが別々に作られていることが特徴で、モチーフの花や人、動物は際立っており、受胎告知や狩猟の風景、聖書の出来事などを表現しているものもあります。
レースを堪能する旅へ
アンティークが好きな方は、海外旅行に行った際にマーケットやショップでお気に入りの品に出会うことがあるかもしれません。
アンティークレースは発祥の地ヨーロッパでも人気が高く、アンティーク・フェアなどで見かけるのはもちろん、生産地では美術館も多く見られます。
イタリアやかつてフランドルと呼ばれた地域を旅する方は、ぜひそのエリアで生産されたレースに触れてみてはいかがでしょうか。
きっとその国の歴史やレースの魅力をさらに味わえる事となるでしょう。
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