アンティークの中で最も暮らしに取り入れやすいものは、陶磁器のコーヒーやティーカップ&ソーサーかもしれません。
華奢なフォルムと優雅なデザインで、今もなお世界中の多くのファンを惹き付けてやまないアイテムです。
今回はティータイムの時間をより贅沢に演出してくれる、アンティーク陶磁器のカップ&ソーサーについてご紹介します。
ヨーロッパ陶磁器のカップ&ソーサーの歴史
「イギリスの紅茶の歴史」でご紹介したように、ヨーロッパに紅茶が伝わったのは16世紀半ばのこと。
イギリスではチャールズ2世の王妃、ポルトガル出身のキャサリン・オブ・ブラガンザの影響から、また17世紀後半にはコーヒーハウスの流行によってコーヒーや紅茶が上流階級に広がり、人々の飲み物の習慣が大きく変化を遂げました。
そのため、それまでヨーロッパには存在しなかったコーヒー・紅茶のための容器や道具が必要となりました。
紅茶とコーヒーの需要とともに
18世紀になると、裕福な女性たちが家庭で紅茶やコーヒーを嗜むことがファッショナブルとなったのは、「アンティークシルバーのティーセット」でご紹介したとおり。
エレガントなシルバーのティーセットは上流階級のステイタス・シンボルとなりましたが、銀製のカップには問題がありました。
というのも、銀は熱伝導率が優れており、ポットなどでお湯を保温するには適しているものの、紅茶やコーヒーを飲むためのカップの素材とするには熱すぎるというのが原因でした。
また当時、中国や日本から磁器の茶器が輸入されてはいたものの、それらはとても高価でした。
コーヒーハウスやその頃の流行であった紅茶を提供する庭園では、訪れる客のために磁器のカップを用意するのは現実的とは言えませんでした。
温かい飲み物を飲むために、別の素材を用いた容器を生産する必要があったのです。
エレガントさの追求
その時代、コーヒーは缶のような器で提供されていました。この缶は金属製シリンダーであり、こちらもカップ本体そのものが非常に熱くなり、手で持つのも困難なほどだったそう。
この金属製シリンダー缶には深みのあるソーサーが付いていましたが、これは缶を置くべきものではなく、コーヒーを冷ますためにソーサーにコーヒーを注ぎ、そこから適温となったものを飲むためのものだったと言われています。
しかしこの姿はあまりエレガントではなく、マナーに反するとして不評だったのは想像に難くありません。
紅茶やコーヒーをより快適に、より優雅に楽しみたいという上流階級の人々のために、ヨーロッパの陶器産業はカップ&ソーサーのために独自の発展を遂げることとなったのです。
始まりはオリエンタルの模倣から
ヨーロッパでコーヒー・紅茶を飲むために最初に登場した容器は、17世紀初頭に東インド会社によって中国から輸入された磁器と炻器(ストーンウェア)の小さなボウルでした。
18世紀の初頭からヨーロッパや英国では、これらの茶器を模倣した紅茶用ボウルが生産され始めました。
炻器(ストーンウェア)、土器(アースンウェア)、磁器で作られたこれらの紅茶用ボウルでは、当時の流行である中国趣味の美術様式、「シノワズリ」の装飾が人気となりました。
この初期の紅茶用ボウルにはハンドル(取っ手)がなく、低めで受け皿のようなフォルムをしていました。
これは当時の紅茶が非常に高価だったため、少ない量で満足できるよう浅いかたちをしていたと言われています。
しかしこの紅茶用ボウルはハンドルがないために、カップの縁と底を指で支えなくてはならず、そうすると今度は指が熱すぎるという欠点がありました。
そのためこの紅茶用ボウルは、現在のように高さのあるフォルムでハンドル付きのティーカップに生まれ変わることとなったのです。
上流階級の人々の要望に応えて
18世紀には非常に珍しい存在であったハンドル付きカップですが、1810年までにこのかたちは世界的に普遍なものとなりました。
カップが進化するにつれ、ソーサーは小さくなり、カップを冷ますため、そしてティースプーンを置くための場所となりました。
ヨーロッパ陶磁器産業の発展により、さまざまな国で繊細なフォルムと優雅なデザインのカップが誕生し、ティータイムの流行はヴィクトリア朝時代に頂点に達します。
当時の上流階級の女性たちの間では、カップ&ソーサーを贈り物とすることがファッショナブルとなり、結婚式を始めさまざまな機会にプレゼントとして贈られることとなりました。
日々の暮らしにアンティーク陶磁器のカップ&ソーサーを
上流階級の人々のために優雅な姿へと変わっていったヨーロッパ陶磁器のカップ&ソーサーは、暮らしに取り入れやすく、日常に贅沢なスパイスを与えてくれるアイテムです。
心惹かれるアンティークのカップ&ソーサーを見つけて、ときにはちょっぴり贅沢で優雅なティータイムを過ごしてみてはいかがですか?
そのひと時は暮らしに彩りを添えてくれる、大きな喜びとなるでしょう。
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