アンティーク・ドールとともにヨーロッパの人形の歴史の中で深い関りがあるのが、ドールハウスです。
ミニチュアサイズの人形の家で、多くの方が幼いころに遊んだ記憶があるのではないでしょうか。
今回は登場した時代から現在に渡るまで、長く人々を魅了するドールハウスの歴史についてご紹介します。
ドールハウスの始まり
ドールハウスの原型とも呼ばれているのは、古代エジプト時代の有力者メケトレの墓から発掘されたボートとボートを漕ぐ人々を始めとする、世界最古のミニチュア模型です。
紀元前2000年ごろに作られたとは思えないほど精巧な模型で、これらはメトロポリタン美術館に一部が展示されています。
しかしヨーロッパでミニチュアの家が登場したのはずっと後、16世紀半ばのことになります。
ヨーロッパのドールハウスの歴史
最古のドールハウスとして歴史に刻まれているのは、バイエルン公アルブレヒト5世が自分の住まいのレプリカをミニチュア版で作らせたもので、その詳細が記録として残っています。
おそらく彼は娘のためにこれを作らせたのではないかと推測されていますが、これは現存されていないため、確かではありません。
このヨーロッパのドールハウスの元祖となるミニチュアの家はドイツ語で"ベビーハウス"と呼ばれ、豪華な調度品で埋め尽くされた4つの部屋があったそうです。
大人の楽しみであったドールハウス
アルブレヒト5世の"ベビーハウス"は記録だけで現存していないため、これを最古のドールハウスと呼ぶのかどうか、さまざまな意見があります。
また、この家は子どもが遊ぶものというよりも、キャビネットのように前に扉が付いており、開いた内部にミニチュアの部屋があるというように製造されていました。
これは人々を驚嘆させるディスプレイとして、そしてその家の富の象徴として大人のためのコレクションであったのです。
"ベビーハウス"は最初にドイツで作られ、次に生産を始めたオランダでは"キャビネット・ハウス"と呼ばれるようになりました。
教育に使われたドールハウス
この初期のドールハウスが最も発展したのはドイツでした。ドイツの裕福な家庭では、その家に生まれた娘のための教材として使われており、娘が大人になったときに家庭ですべき事を母親が教えるために使用されたのです。
またこれは使用人にも家庭内業務を教えるときにも使われていたと言われています。このように初期のドールハウスは遊ぶためはなく、大人のための趣味か教育、どちらかの目的で必要とされていたものでした。
"キャビネット・ハウス"は瞬く間に人気となり、ヨーロッパ中の上流階級の人々はこぞってオーダーし始めることになりました。
特に人気があったのは、彼らの自宅をそのままミニチュア化したものでした。裕福な人々は費用を惜しむことなくそそぎ込み、この時代のドールハウスは非常にバラエティに富み、個性豊かなものが多く作られました。
著名なドールハウスの数々
キャビネットタイプでない最初のドールハウスのひとつは、1673年と煙突に刻印されたドイツ製の「ニュルンベルク・ハウス」です。
これはミニチュアの家の正面が扉のように左右に開き、内部には1階に2部屋に分かれたキッチン、2階に2部屋に分かれたベッドルームが作られています。
18世紀になると更に小さなドールハウスが登場します。特に有名なものが1760年ごろに作られた「テート・ベビーハウス」です。
テート家が所有していた「テート・ベビーハウス」は、何世紀にも渡って家具や調度品が追加され、18世紀の建築スタイルをリアルに再現した豪奢なドールハウスです。
この「テート・ベビーハウス」は分解して持ち運びができるようになっており、このふたつの著名なドールハウスはロンドンのヴィクトリア&アルバート子供博物館に展示されています。
一般の人々の楽しみ、喜びへ
1900年代初頭になるとドールハウスはさらに発展を遂げ複雑化し、屋根には貯水槽を持ち、温水を供給するドールハウスまで登場するようになりました。
この時代のドールハウスの価格は労働者の3か月分の賃金に相当し、依然裕福な人々しか手にすることはできませんでした。
それらは職人がひとつひとつ手作りしたもので、すべてのものが細部に至るまでこだわって作られており、シルバーやマホガニー製の家具まで備え付けられていたのです。
しかし産業革命時代になり大量生産が可能になると、一般の人たちも手ごろな価格でドールハウスを所有できるようになりました。
木は変わらず使われてきた素材でしたが、厚手の段ボールなども使用され始め、やがて第2次世界大戦後にはプラスティックを用いたドールハウスが登場するようになったのです。
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ミニチュアの世界に魅せられて
ミニチュアのものを目にすると、その精巧さに驚き、そしてじっと眺めずにはいられない魔力のようなものを感じることはありませんか?
小さなサイズで作られたものは、多くの人の心を虜にする力を持っているのかもしれません。ドールハウスは生産された当初から、そして未だに多くの人を惹き付け続けています。
ドールハウスをあまり見る機会がなかった方は、ぜひ一度、その小さなビジュアルが持つ大きな物語の世界を訪れてみてはいかがでしょうか。
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